春日井のあさんから

『雛祭り脱衣ババ抜き大会だぜひゃっほーい(←』(多分題名)


とある屋敷の三階。
ヘッドフォンを身に着けた青年が窓から外を見下ろし微笑んだ。

しばらくすると階段を駆け上がる音が聞こえてきて
その音の主は彼の部屋のドアを勢いよく開けた。

「全く。随分遅い到着じゃん?橘。」

「・・・だったらもう少し階が下の部屋にしてくれないかな。」

「雷が落ちるから?」

「・・・煩いよ」

「あれれー♪喧嘩かなー?ww」

続いて橘と楼恋の間に入るようにkumuruが部屋に入って来た。
彼は持っていた紙袋を楼恋に渡して近くの椅子に座り込んだ。

「お帰りkumuru。ちゃんと買ってきてくれたんじゃん?」

kumuruはこくこくと頷くと次はサビノと妃遥薇が入って来た。

「よ、待たせたな。」

「呼び出してもらったところ悪いけど早く帰りたいな・・・嫌な予感もするし。」

2人はそれぞれ言い放つと二人用のソファに座った。
それを合図に楼恋は立ち上がった。

「さ、全員そろった事だしそろそろ始めようか?」

彼は呼び出された四人をされぞれ見回すと得意げに先程kumuruが渡した紙袋からトランプの束を取り出した。

「雛祭パーティーにちなんで、脱衣ババ抜きでも」

「全然ちなんでないよ。それに脱衣って何」

橘が即座に口を挟むと楼恋はニヤリと微笑した。
橘だけではなくサビノも妃遥薇も頭に『?』を浮かべて不思議そうにしている。

「ルールは簡単。ババ抜きで負けた奴が身に着けている物を一つ取るんじゃん。
取るものがなくなった時点でゲームオーバー。
最初に抜けた奴はさっきkumuru自前の衣装でそのまま帰宅。OK?」

そう言うとカードを配布する楼恋に妃遥薇は諦めたように配られたカードを眺めていた。
サビノも勝つ自信があるらしくペアのカードを抜き取っている。
kumuruは自分のカードを見るなり一枚一枚眺めてから同じ数字のカードを手札から抜いた。
橘はその様子を見ると溜息をついてトランプの束を持ち椅子に腰掛けた。

「ん、全員済んだかい?それじゃあ、スタートじゃん。」

楼恋は橘の手札を一枚引いて自分の手持ちに加える。
橘はサビノから手札を一枚貰い同じ数字のカードを抜き取る。
サビノはkumuruから一枚引いてよく切ってから手持ちに加える。
kumuruは妃遥薇のカードから一枚引く。
妃遥薇は楼恋から引く。

数分後。
最後まで残ったのは楼恋。
橘はその様子を見ながらふん、と鼻で笑う。

「ルール。『負けた奴が身に着けている物を一つ取る』だったよね。」

「いちいち言わなくても分かってるじゃん。」

楼恋は小さく舌打ちすると身に着けていた右手の指輪を一つ外した。
その様子がサビノには不満だったらしくサビノは立ち上がり楼恋に反論した。

「ちょっと待て。そんなの無しだろ」

「そうだよ。大体そうしたらあんたが明らかに有利だよね」

「『身に着けている物』だからこれはOKじゃん?さ、第二回戦始めるよ。」

楼恋は再びバラバラになったカードを集めてよく切った。
次々と自分の前に置かれていくカードを見て2人は再び腰掛けた。

二回戦に負けたのは妃遥薇だった。
妃遥薇は中性と言う話で脱衣は駄目なんじゃないかという意見もあったが妃遥薇は最終的には渋々サンタ帽を脱いだ。

「うう、終わったら被っていいんだよね?」

「最下位にならなければ、OKじゃん。」


そして三回戦が始まった。
終わったら次は四回戦。
休む間もなく五回戦。
六回戦、七回戦、八回戦・・・

そして十回戦に達した時だった。

「・・・また負けかよっ!」

そう叫ぶと上半身裸のサビノは手元に一枚残ったジョーカーを机に叩きつけた。

「自分の運の問題じゃん?」

「うるさいっ!」

サビノはぶつぶつ文句を言いながら装備していたガンベルトを外した。
その様子を尻目にしながら右手の指輪を外しただけの楼恋はカードをまとめる。
橘はネクタイと上着を脱いだ状態で椅子に座っている。
妃遥薇は帽子と上着。kumuruは上の服に靴を片方、といった状態だった。

「予めこういうことをするんだったら連絡はしてくれないかな。
服装にもばらつきがあるからね。」

「そんなことしたら、面白く無いじゃん。」

「面白いのは多分あんただけだと思うよ。」

「そろそろ11回戦、始めないかな・・・?」

「大体、あんたが一敗しかしていないっていうのが疑問なんだけど。
主催者が不正行為なんて感心はしないよ。」

「橘はジョーカーを手札の真ん中に加える癖があるから直ぐにわかるんじゃん。」

「いいから、始めるよ!」

橘と楼恋が言い合いを止めた所で今度は妃遥薇がカードを配る。
全く、血の気が多い人たちだ、と言うように妃遥薇は溜息をついた。

「少しはkumuruさんを見習ってよ。黙々と次の戦略考えてるんだから。」

「ハニー?kumuruは何も考えていないんじゃん。」

「・・・?ww」


そんな会話を繰り返しながらもようやく25回戦。
敗者はパンツ一枚で手元に残ったジョーカーを投げ捨てた。

「これは作戦か何かじゃん?」

「いや、お前が卑怯な手を使った罰だろ。」

「あんた言ったよね?最初に抜けた奴は・・・」

「『kumuruさんの自前の衣装を着る。』だね。」

橘・サビノ・妃遥薇は楼恋を取り囲み今度は三人がニヤリと微笑した。
彼は何度か3人の説得を試みたが迷いの無い表情にすーっと血の気が引いた。

「く・・・kumuru!!あの服、持ってきて欲しいじゃん!」

ついに観念したか楼恋は一人でトランプを重ねていたkumuruを呼んだ。
するとkumuruはすくっと立ち上がり紙袋を楼恋の前に持ってきた。
その時の格好はその場に居た全員が呆気に取られた。

kumuruはババ抜きに何度か負けはしたが、得意の上の空で最後まで残る事は少なかった。
1回戦から25回戦まで、負けたのは2、3回程だった。
だから、kumuruの今の格好は普通にルールに従っていれば「有り得ない」ことなのだ。

「kumuru・・・?なにをしてるんじゃん?」

「えー?何が?ww」

kumuruは現在の楼恋と似たような格好、いわゆるパンツ一枚で立っていた。
25回戦が終わるまではちゃんと服を着ていたのだが、何という早業。
この光景にとても耐え切れなくなったのは妃遥薇。
kumuruから紙袋を奪い取り部屋がびりびりと鳴りそうなほどに叫んだ。

「もう衣装は着なくていいから2人とも服を着てよー!!」

「それが、kumuruの服がどこにも無いんだけど・・・知らないか?」

「んー?どこ行ったのかなぁ?w」

「服が無いんならそれしか無いじゃん?」

そう言うと楼恋は先程妃遥薇がkumuruから奪い取った衣装を取り出した。
それは普通の店では売ってなさそうな軽そうな素材の・・・セーラー服。

躊躇いもせずにkumuruはそれを着込むと、突然ドアを大きくノックする音が聞こえた。
それから、部屋主の返事も聞かずドアを勢いよく開けた。

「ろーれーん!!ひなあられをお裾分けしに来たのだー!!」

ドアを開けたラメルの見たものは他の何物にも例えようの無い、カオスそのもの。
流石のラメルも想像してはならない、妙な事を想像したのかゆっくりドアを閉めた。

「・・・邪魔したのだ。」


それは寒さも和らぐ3月。
あるひなまつりの出来事だった。


*end*







とある地下の段ボール箱。の春日井のあさんに頂きました